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新型インフルエンザ(A H1N1)感染の現状に関する報告(ジェトロ)

ジェトロ (日本貿易振興機構)による、新型インフルエンザ(A H1N1)感染の現状に関する報告


2009年5月20日

連邦政府保健省の5月12日付発表、5月19日付発表データを基に、メキシコの新型インフルエンザ感染状況について以下のとおり(まと)めてみた。


<感染はピークを越えたが、完全な抑制には程遠い>

連邦政府保険省は4月23日以降、毎日新型インフルエンザ感染に関する報告を行っており、5月5日以降は各種統計資料をプレゼンテーションの形で同省ウェブサイト(https://portal.salud.gob.mx/contenidos/noticias/influenza/estadisticas.html)に掲載している。

新型ウィルスによる感染の確認件数は5月以降も日を追うごとに増えているが、これは感染者数が直近で大きく増えているのではない。過去に遡って検体のウィルス検査を行っているため、過去(4月)に発症した感染者が新型ウィルスによるものだと今になって確認された件数が含まれる

世界で初の新型ウィルスということもあり、4月時点ではメキシコ国内に十分なウィルス検査を行うインフラが不足しており、同インフラ整備に時間を要した。WHOの協力も得てインフラが整備された現時点でも、1日当たりのウィルス検査能力は1、000件程度であるため、過去の膨大な検体を全て検査するのには時間がかかる。

感染状況の動静をみるためには、確認された時点の数字の合計だけではなく、発症日別の感染動向をみる必要がある。5月19日付の最新発表データと1週間前(5月12日付)のデータで発症日別の感染動向をグラフ化すると、図1のとおりとなる。

最新データでも1週間前のデータでも感染のピークは4月26日前後であり、その後は沈静化していることが分かる。過去に遡って確認しているため、ピークの高さ(件数)は1週間でかなり高くなっているが、ピークの位置と大まかな形状は変わらない。

感染が沈静化しているのは間違いないが、4月20日前後からピークまで急速に上昇した傾斜角に比べ、ピーク後の下方への傾斜はなだらかであり、現在でも感染が息長く続いている傾向が読み取れる。


<新型ウィルスと判明した後の死亡率は0.2%>

他方、死亡日別の死者数をみると、4月25日前後がピークであり、その後は沈静化している。ここ1週間ではメキシコ市首都圏よりも地方において死亡が散発している。


死亡日でみると依然として抑えきれていない印象を受けるが、発症日でみると4月24日以降に発症した患者はそれほど死亡していない。5月の死亡の大半は、4月に発症した入院患者が5月に死亡したケースである。

全体の感染者数と死亡件数で死亡率を計算すると、メキシコにおける死亡率は2.0%にも達するが(表1参照)。しかし、4月23日に新型ウィルスによる感染だと判明し、緊急警報が出された4月24日以降に発症した人のうち、死亡したのはわずか7人のみである。つまり、新型ウィルスとは判明していない段階で発症してしまい、その後亡くなった患者が9割を占める。


4月24日以降の発症者数と死亡者数のみで死亡率を計算すると0.2%となり、死亡率が他の感染国に比して極端に高いメキシコでも、4月24日以降、国民の注意を高めて早期に治療を受けさせれば、多くの死者は発生しなかったことがわかる。


<働き盛りの死亡者が多い>

年齢別の感染者数、死亡率を表2にまとめてみた。感染者は20歳未満が約5割、40歳未満が8割以上を占め、若い世代の感染が多いのが分かる。ただし、メキシコは人口構成上、若い世代の比率が高いため、若い世代の感染がある程度多いのは理解できなくはない。感染者数と人口構成をみると、若い人の感染が人口構成に比しても高いが、不自然なほどではない。


他方、死亡者数を年齢別にみると、人口の4割を占める20歳未満の死亡者数は全体の13.5%に過ぎない。他方、人口の48.8%を占める20~50代の働き盛りの死亡者数は、全体の8割以上を占め、人口構成と死亡者数の構成比に大きな差がみられる。


<社会・経済的な要因も>

5月12日時点のデータだが、教育レベル別の死亡者数も発表されている。これをみると、全体の5割以上が小学校以下の学歴であり、大学を終了した人で死亡したのは1割に過ぎない。したがって、低所得層の死者が多いことが推測できる。


死者の9割が4月23日以前に新型ウィルスとは知らずに発症したことを考えると、多くの者が発症した後すぐに病院にいくことなく、手遅れの状態で病院に運ばれ、治療の甲斐なく死亡していったことが考えられる。

また、働き盛りの経済活動人口に死者が多いことを考えると、風邪に似た初期症状を無視して仕事を優先した可能性も考えられる。国際金融危機の影響により2009年のメキシコ経済はマイナス成長が確実視され、失業率も上昇を続けており、家計の実質所得が減少傾向にある現状にあるため、仕事を優先して手遅れになった可能性もある。

さらに、義務教育(中学校まで)を終えていない層の死者が多いことを考えると、死亡者の多くは正規労働者でなかった可能性が高い。社会保険庁(IMSS)に加盟する正規労働者は、IMSSが運営する病院で無料の診察を受けられるが、非正規労働者は普通のIMSS病院ではなく、「IMSS Oportunidades」という社会保険に加入していない患者を対象とする特別な病院に行かない限りは、通常は無料で診察を受けられない。

そのため、近くの病院では診てもらえないと思い、病院に行くのを我慢した可能性もある。新型ウィルスによる感染と発表された4月23日以降は、連邦政府の指示に基づきIMSS加入・非加入に関わらず、全ての感染疑義者がIMSS病院の診察を受けることが可能になったが、4月23日以前はそのような対策は採られておらず、また、新型ウィルスの脅威についても国民に認知されていなかった。今回のメキシコにおける新型インフルエンザ死亡率の高さは、社会的・経済的な様々な要因が重なったことによるものと思われる。

なお、5月19日時点の居住地に基づく州別感染者数、死亡者数は表4のとおり。感染者数は30州1連邦区に広がっているが、死亡者が確認されているのは、そのうち10州1連邦区である。


以上

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